
サウジアラビア ジザーン
石造テラスが守る、アラビア半島の在来アラビカ
サウジアラビア南西部ジザーン州、サラート山脈の石造テラスで300年以上育まれてきた在来種ハワラニ。2022年UNESCO無形文化遺産に登録され、低酸味でデーツやカルダモンを思わせる甘い風味を持つ、PIF主導で生産回復が進む希少なアラビカです
産地情報
| 産地 | サウジアラビア ジザーン州(アルダーイル県など、アルバハ・アブハにも産地) |
|---|---|
| 品種 | ハワラニ種(Khawlani、アラビカ在来品種群) |
| 標高 | 1,000〜1,800m |
| 味わい | デーツ・レーズン・カルダモン・シナモン・ダークチョコレート、低酸味で甘みの強い風味当サイトの味わいの目安です。公開ロット情報と地域の一般的傾向に基づき、特定ロットの評価や試飲記録ではありません(編集方針)。 |
品種情報
品種:ハワラニ種(Khawlani、在来品種群)
ジザーン州からアルバハ・アブハにかけてのサラート山脈一帯で栽培されてきた在来種。名は同地に住んだハウラーン・ビン・アーミル族に由来し、栽培の歴史は300年以上とされる(UNESCO)。20世紀後半は石油経済への転換で栽培農家が数百軒規模まで減少したが、近年は公共投資基金(PIF)主導で生産回復が進む
- 2022年、UNESCO無形文化遺産に「ハワラニコーヒー豆栽培の知識と実践」として登録
- 石造テラス農法で山岳の水と土壌を保全
- 収穫した果実を広げて乾燥させる伝統製法
- 国内消費とGCC諸国向けが中心、2025年初頭には欧州向けの出荷も報じられた
ハワラニコーヒーとは
ハワラニ(Khawlani)は、サウジアラビア南西部ジザーン州を中心に、アルバハ・アブハへと連なるサラート山脈一帯で育つアラビカの在来品種群です。名は同地に長く暮らした部族の祖ハウラーン・ビン・アーミルに由来し、栽培の歴史は300年以上とされます(出典: UNESCO無形文化遺産登録資料、2022年)。国境を接するイエメン モカと並び、アラビア半島に現存する数少ないアラビカ在来品種のひとつです。
標高1,000〜1,800mの急峻な渓谷に築かれた石造テラスで、収穫から乾燥まで機械を使わない手作業が続きます。苗は土を入れた袋で3〜4か月ほど日陰に置いてから畑へ移植し、収穫した果実は広げて乾燥させるナチュラル精製で、平らな石臼で挽いて外殻を分離する伝統製法が今も残っています(出典: UNESCO無形文化遺産登録資料、2022年)。
20世紀後半、石油経済への転換とともに栽培農家は数百軒規模まで減少しました(出典: Wikipedia「Khawlani Coffee Beans」)。潮目が変わったのは2021年末から2022年にかけてです。2022年5月、公共投資基金(PIF)はサウジコーヒー社(Saudi Coffee Company)の設立を発表し、10年間で12億サウジリヤル(約3.2億米ドル)を投じる計画を示しました。発表時点で、ジザーンを含む3地域の合計で2,500超の農園、約40万本のコーヒーノキがあり、全国の年間生産能力を300トンから2,500トンへ引き上げることを目標にしています(出典: PIF、2022年5月発表)。ジザーン州単独の生産能力や農家数は一次資料で確認できていません。
2023年にはサウジコーヒー社がジザーンに最初のモデル農園を開設しました(出典: PIF、2023年)。報道では農園の規模を100万平方メートルとし、2030年までにコーヒーノキ500万本の植樹を目指すほか、年400人超の農家研修も行っているとされます(出典: AGBI、2023年11月)。2025年初頭には、ジザーンの協同組合がベルギー・東欧向けに出荷したとも報じられています(出典: Global Coffee Report、2025年7月)。
風味とガフワ文化
ハワラニは低酸味で、デーツやレーズンを思わせる甘み、カルダモンやシナモンのスパイス感、オイリーな質感を伴うダークチョコのコクが重なります(出典: Slow Food Foundation Ark of Taste/brewlogy.com)。
この風味は、サウジアラビアの伝統的な淹れ方ガフワ(Qahwa)とも深く結びついています。ガフワは焙煎をごく浅い段階で止めた豆をカルダモンと共にゆっくり煮出し、注ぎ口付きのポット「ダッラ」で供する淹れ方で、来客への歓待を象徴する儀礼として今も続いています。地域によってはサフランやクローブを加えることもあります(出典: Perfect Daily Grind、2022年/Arab News)。
現地では1kgあたり27〜40米ドルという高値で取引される希少品でもあります(出典: Asharq Al-Awsat、2021年報道)。
代表的な産地
代表的な農園
- アルダーイル県Al-Dayer Governorate
石造テラス農法によるハワラニ種栽培が続くジザーン州の産地のひとつ
- サウジコーヒー社 モデル農園Saudi Coffee Company Model Farm
公共投資基金(PIF)傘下のサウジコーヒー社が2023年に開設した最初のモデル農園。報道では100万平方メートル規模、2030年までにコーヒーノキ500万本の植樹を目指す。PIFは全国の年間生産能力を300トンから2,500トンへ引き上げる目標を掲げる
- ジザーン・コーヒー協同組合Jazan Coffee Cooperative
ジザーン州の農家の協同組合。Global Coffee Report(2025年7月)は2025年初頭にベルギー・東欧向けに出荷したと報じている(正式名称・組合員数は一次資料で確認できていない)
精製方法
精製方法
ナチュラル
Natural / Dry Process
フルーティーで甘みが強い。ベリー系の発酵感とワインのような複雑さ
フレーバーチャート
おすすめの焙煎度
おすすめの焙煎度
シナモン ロースト
ポジショニングマップ
ポジショニングマップ
淹れ方のポイント
- お湯の温度:90〜92℃
- 挽き目:中挽き
- 抽出方法:ペーパードリップ推奨(伝統のガフワはカルダモンと共に煮出す)
- 豆の量:12〜13g / 200ml(12g → デーツと軽いスパイス感、13g → カルダモンとダークチョコのコクが深まる)
📏 基準のエビデンス
- 豆の量:SCA(スペシャルティコーヒー協会)家庭用ブリューワー規格(SCA Standard 310)の目安 55g/kg(約1:18、200mlで11g)/日本式 1:14〜1:16(200mlで12〜14g)。本ブログは焙煎度別に世界寄りの中間値を採用
- お湯の温度:SCA基準 90〜96℃(93℃±3)/日本式は焙煎度に応じて低めを好む(浅煎りでも90℃前後)。本ブログは焙煎度別に世界+日本式の折衷を採用
- 出典:SCA Coffee Standards / Specialty Coffee Association
目的別に次に読む
- 隣国イエメンの産地と比べたい → イエメン モカ・マタリのコーヒー
- 内戦下のイエメンのコーヒーを知りたい → イエメン — 内戦下で生き残るモカ・コーヒーの供給網
- ナチュラル精製で味がどう変わるか知りたい → コーヒーの精製方法ガイド
- 中東・アフリカの産地を一覧で見たい → 中東・アフリカ地域の産地
訂正(2026-09-29): ハワラニの栽培の歴史を「800年以上」と記載していましたが、UNESCOの無形文化遺産登録資料では「300年以上」でした。「300年以上」に改めました。登録日を「2022年11月30日」としていましたが、確認できたのは2022年の登録で、日付は一次資料で確認できなかったため年のみにしました。乾燥工程を「収穫した果実を日陰で3週間ほど天日乾燥」「網袋に入れて数か月保管したのち、日陰を選びながら天日で乾燥」と記載していましたが、UNESCOの資料では、土を入れた袋で3〜4か月日陰に置くのは移植前の苗で、収穫した果実は広げて乾燥させるとされていました。苗の管理と収穫後の工程を分けて書き改めました。「2021年時点でサウジ全土の農家約600軒・約40万本・年間生産能力約800トン」「2022〜2032年の10年計画」「ジザーン州単独で2,000軒超の農家が年間1,000トン超」と記載していましたが、PIFの発表で確認できたのは、10年間で12億サウジリヤルを投資する計画、全国の年間生産能力を300トンから2,500トンへ引き上げる目標、3地域合計で2,500超の農園・約40万本でした。PIFの発表の値に改め、年間生産能力約800トンとジザーン州単独の農家数・生産量は一次資料で確認できなかったため削除しました。「2025年初頭にジザーン・コーヒー協同組合が欧州向けの初出荷を実現」「アルダーイル県はジザーン州最大の産地」と記載していましたが、「初」と「最大」はいずれも一次資料で確認できなかったため削除し、出荷は報道として記載しました。ガフワを「土鍋(ダッラ)で煮出す」と記載していましたが、ダッラの材質は一次資料で確認できなかったため、「土鍋」の記述を削除しました。あわせて副題の「アラビア半島最後のアラビカ」を「アラビア半島の在来アラビカ」に改めました。
訂正(2026-09-30): 抽出の目安で「SCA(米スペシャルティコーヒー協会)Golden Cup基準」と記載していましたが、SCA(スペシャルティコーヒー協会)は米国のSCAAと欧州のSCAEが2017年に統合した団体で、「Golden Cup」は旧SCAAの名称のため、「SCA(スペシャルティコーヒー協会)家庭用ブリューワー認証の基準」に改めました。比率(55g/L、約1:18、200mlで11g)は変更していません。同日、この基準を示していた2017年の認証要件の文書がSCAのサイトで公開されなくなっていたため、現行の家庭用ブリューワー規格(SCA Standard 310-2021、水1kgに豆55g)の表記にそろえました。
参考文献・情報ソース
- UNESCO Intangible Cultural Heritage — Knowledge and practices related to cultivating Khawlani coffee beans
- PIF — PIF launches Saudi Coffee Company (2022年5月)
- PIF — Saudi Coffee Company launches its first model farm in Jazan (2023年)
- AGBI — Saudi unveils next-gen coffee farm as ambitions percolate (2023年11月)
- STIR Coffee and Tea Magazine — Saudi Arabia Builds Largest Coffee Farm in the Middle East
- Asharq Al-Awsat — Growing Coffee in Saudi Jazan Passes Down from Generation to Generation
- Slow Food Foundation — Saudi Khawlani Coffee Beans (Ark of Taste)
- Perfect Daily Grind — What is qahwa coffee & how do you prepare it?
- Arab News — The story of Saudi coffee from a regional tradition to a global market
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