
マルティニーク モルヌ・ヴェール
カリブから中南米へ――全米大陸珈琲の祖、ド・クリューの一本
1720年代、歩兵大尉ガブリエル・ド・クリューが自らの水を分け与えて生かしたティピカの苗が根付いた仏領マルティニーク。ここから珈琲はサントドミンゴ・グアドループ・中南米へ広がった。CIRADが原木3本を発見し2021年に復活させた、全米大陸珈琲のふるさとの一杯です
産地情報
| 産地 | 仏領マルティニーク・モルヌ・ヴェール/フォン・サン・ドニ/ベルフォンテーヌ(カルベ山麓) |
|---|---|
| 品種 | アラビカ・ティピカ |
| 標高 | 約300〜500m(プレー山・カルベ連峰の火山斜面) |
| 味わい | チョコレート・ナッツ・熟果実・低い苦味と穏やかな酸味、滑らかな甘み当サイトの味わいの目安です。公開ロット情報と地域の一般的傾向に基づき、特定ロットの評価や試飲記録ではありません(編集方針)。 |
品種情報
品種:ティピカ(マルティニーク)
1720年代、マルティニークの歩兵大尉ガブリエル・ド・クリュー(同時代の編者によれば海軍少尉も兼任)がパリの王立植物園(Jardin du Roy)から持ち出したアラビカ・ティピカの苗を、長い航海の途上で自らの飲み水を分け与えて生かし、マルティニークに届けたと伝えられる。ここから珈琲はサントドミンゴ、グアドループ、近隣の島々、さらに中米・南米へと広がった。新大陸の珈琲のほぼすべてがこの一本のティピカに連なるとされる。2014年以降、農業研究機関CIRADが18世紀の原木を探し当て、わずか3本の純粋なティピカ系統から復活栽培が始まった
- 1720年代ド・クリューが水を分けて生かしたティピカ
- サントドミンゴ・グアドループ・中南米へ伝播した新大陸珈琲の祖
- CIRADが原木3本を特定し2014年から復活プロジェクト
- 苦味が低くチョコレートとナッツの穏やかなカップ
マルティニーク珈琲とは
マルティニークは、東カリブ海・小アンティル諸島に浮かぶフランス海外県です。 この島は単なる一産地ではなく、新大陸(アメリカ大陸)の珈琲のふるさとともいうべき歴史的な起点に当たります。
物語は1720年代にさかのぼります。マルティニークの歩兵大尉ガブリエル・ド・クリュー(同時代の編者によれば海軍少尉も兼任)は、パリの王立植物園(Jardin du Roy)から一本のアラビカ・ティピカの苗を手に入れ、マルティニークへの長い航海に出ました。 船は嵐に見舞われ、水が尽きかけても、彼は自らの飲み水の一部を苗に分け与えて生かしたと伝えられます。 こうして島に根付いた一本の木は、本人の書簡によれば上陸から18〜20か月後に最初の豊作を迎え、やがてサントドミンゴ(イスパニョーラ島。島は現在のハイチとドミニカ共和国にまたがり、どちら側を指すかは一次資料で未確認)、グアドループ、近隣の島々、そして中米・南米へと広がっていきました。 今日カリブと中南米で飲まれる珈琲の系譜の多くが、このマルティニークの一本にたどり着くとされています。 隣島セントルシア スフリエールでも、ル・ヴェリエ農園などがごく小規模なコーヒー栽培を続けています。
栽培の中心は、島の北部にそびえるプレー山(モンターニュ・プレー)とカルベ連峰(ピトン・デュ・カルベ)の火山斜面でした。 最初の苗が植えられたのは北西部プレシュール周辺の斜面と言われます。
その後、火山噴火・サビ病・サトウキビへの転作によって珈琲栽培はほぼ途絶えました。 転機は2014年――フランスの国際農業研究機関CIRAD(国際農業開発研究センター)が、18世紀の系統を引く原木をわずか3本特定し、純粋なティピカ種の復活に着手します。 2017年には約20軒の生産者へ最初の苗1万本が配られ、モルヌ・ヴェール/フォン・サン・ドニ/ベルフォンテーヌの3地区を中心に約20ヘクタールが植えられました。 そして2021年3月、復活した珈琲の象徴的なテイスティングが実現。 約300年前に世界を変えた一本のティピカが、いま静かに蘇りつつあります。
代表的な産地・栽培地区
代表的な農園
- モルヌ・ヴェール地区Morne-Vert
CIRAD主導の復活プロジェクトの中核地区。「緑の丘」を意味する名のとおり、ピトン・デュ・カルベ(カルベ連峰)を望む斜面に珈琲畑が広がる。火山土壌とシェードグロウン環境でティピカを丁寧に栽培
- フォン・サン・ドニ地区Fond Saint-Denis
マルティニーク珈琲復興の主要3地区の一つ。深い谷と森に囲まれた山間の集落で、約20軒の生産者が科学者・専門家の助言を受けながら少量生産に取り組む
- ベルフォンテーヌ地区Bellefontaine
西海岸の丘陵に位置する復興3地区の一つ。CIRADが特定した原木由来のティピカ苗を植え、エクセレンスを掲げた小規模・高品質生産を目指す
精製方法
精製方法
ウォッシュド
Washed / Wet Process
豆本来の味が際立つクリーンカップ。明るい酸味とクリアな風味が特徴
フレーバーチャート
おすすめの焙煎度
おすすめの焙煎度
ミディアム ロースト
ポジショニングマップ
ポジショニングマップ
淹れ方のポイント
- お湯の温度:88〜92℃(低めで穏やかなアロマと甘みを引き出す)
- 挽き目:中細挽き
- 抽出方法:ペーパードリップ推奨。低苦味でクリーンなカップにはハリオV60が好相性
- 豆の量:11〜13g / 200ml(11g → ナッツと熟果実の軽やかな甘み、13g → チョコレートの深い余韻)
📏 基準のエビデンス
- 豆の量:SCA(スペシャルティコーヒー協会)家庭用ブリューワー規格(SCA Standard 310)の目安 55g/kg(約1:18、200mlで11g)/日本式 1:14〜1:16(200mlで12〜14g)。本ブログは焙煎度別に世界寄りの中間値を採用
- お湯の温度:SCA基準 90〜96℃(93℃±3)/日本式は焙煎度に応じて低めを好む(特に深煎り82〜85℃)。本ブログは焙煎度別に世界+日本式の折衷を採用
- 出典:SCA Coffee Standards / Specialty Coffee Association
訂正(2026-09-27): ド・クリューを「海軍士官」、初収穫を「1726年」と記載していましたが、本人の1774年の書簡(Aublet『Histoire des plantes de la Guiane françoise』1775年に収録)では当時の身分は歩兵大尉で(同時代の編者は海軍少尉の兼任も記載)、収穫は「上陸から18〜20か月後に豊作」とあるだけで暦年は記されていません。1726年という年は一次資料で確認できなかったため、書簡の記述に改めました。
訂正(2026-09-29): 苗の伝播先を「サントドミンゴ(現ハイチ/ドミニカ共和国)」と記載していましたが、World Coffee Researchの資料で確認できたのは1735年のサントドミンゴへの伝播までで、現在のハイチ・ドミニカ共和国のどちらを指すかは確認できなかったため、イスパニョーラ島のどちら側かは未確認と明記しました。隣島セントルシアのル・ヴェリエ農園を「1765年にマルティニークから移住したフランス系入植者が開いた」と記載していましたが、創業年と創業者は農園自身の説明のほかに一次資料で確認できなかったため削除しました。
訂正(2026-09-30): 抽出の目安で「SCA(米スペシャルティコーヒー協会)Golden Cup基準」と記載していましたが、SCA(スペシャルティコーヒー協会)は米国のSCAAと欧州のSCAEが2017年に統合した団体で、「Golden Cup」は旧SCAAの名称のため、「SCA(スペシャルティコーヒー協会)家庭用ブリューワー認証の基準」に改めました。比率(55g/L、約1:18、200mlで11g)は変更していません。同日、この基準を示していた2017年の認証要件の文書がSCAのサイトで公開されなくなっていたため、現行の家庭用ブリューワー規格(SCA Standard 310-2021、水1kgに豆55g)の表記にそろえました。
訂正(2026-10-16): 本文で「最初の苗が植えられたのは北西部プレシュール周辺の肥沃な斜面と言われ、火山灰土壌と湿潤な熱帯気候がティピカの繊細な甘みを育てます」と記載していましたが、火山(火山灰・火山性土壌)と風味の因果や斜面の肥沃さを示す一次資料は確認できなかったため、「最初の苗が植えられたのは北西部プレシュール周辺の斜面と言われます」に改めました。
参考文献・情報ソース
- Wikipedia — Coffee production in Martinique
- Wikipedia — Gabriel de Clieu
- CoffeeReview.com — Coffee History: From Europe to the Caribbean
- Spilling the Beans — Researchers Track Down Gabriel de Clieu's Coffee Trees in Martinique
- Martinique AirLocal — Coffee in Martinique: discovering a product of excellence
- World Coffee Research — History of Arabica
- SCA Coffee Standards — Specialty Coffee Association
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