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スリランカのコーヒー|サビ病で紅茶の島になったセイロンと高地アラビカの復興

かつて大規模なコーヒー輸出で栄えた島が、サビ病壊滅を経て再び高地アラビカで復興する

1869年に確認されたサビ病で衰退したセイロン島のコーヒー。かつて大規模なコーヒー輸出で栄えた島で、標高1,868mのヌワラエリヤなど中央高地を中心に、輸出農業局(DEA)の支援のもと高地アラビカの復興が進む


この記事の要点

  • スリランカ(旧称セイロン)は1870年代まで大規模なコーヒー輸出国だったが、1869年に確認されたコーヒーリーフラスト(サビ病)で産業が衰退し、いま高地アラビカの復興が進む
  • 1912年版Ferguson's Ceylon Directoryでは、セイロンのコーヒー輸出量は1870年の88万5,728cwtがピークで、1889年には8万8,000cwtと10分の1未満に減った
  • セイロンのコーヒー栽培面積は1902年に4,300エーカー(約1,740ヘクタール)まで縮小し、高地は紅茶産地へ転換した
  • ラクパラクムはスリランカ輸出農業省が選抜した現地改良種で、MDFの報告書は高収量・均一な熟成と真菌病への抵抗性を挙げている(サビ病に特化した耐性は一次資料で未確認)
  • スリランカ全体のアラビカ適地は標高800m超の湿潤・中間帯とされる(スリランカ輸出開発庁EDBの記事)

産地情報

産地スリランカ・中央高地(ヌワラエリヤ 標高1,868m / ハプタレー高地 標高1,431m)
品種ラクパラクム(Lakparakum)/カティモール(Catimor)/ティピカ系(Typica-type)
標高800〜1,900m(アラビカ栽培帯)
味わいチョコレート・ナッツ・ベリー・ブラックペッパー・ほのかな土のニュアンス当サイトの味わいの目安です。公開ロット情報と地域の一般的傾向に基づき、特定ロットの評価や試飲記録ではありません(編集方針)。

品種情報

アラビカ種Coffea arabica最高品質

品種:ラクパラクム(Lakparakum)

スリランカ輸出農業省(Department of Export Agriculture)が選抜した現地改良品種。MDF(Market Development Facility)の報告書では、均一な熟成・高収量と真菌病への抵抗性が報告されている(収量の具体値や試験条件、サビ病に特化した耐性は未確認)。農家の選好が高まっているとの報告もある。同報告書はSCAのカッピングで86点を記録したとしており(元の採点票は未確認)、チョコレート・ナッツ・ベリーの複合的なカップクオリティが評価されている

  • スリランカ輸出農業省が開発した地場改良種
  • 真菌病への抵抗性の報告あり(サビ病耐性未確認)
  • 均一な熟成と高収量の報告あり(MDF報告書)
  • SCAカッピング86点の記録(MDF報告書による)

スリランカのコーヒーとは

スリランカ(旧称セイロン)は紅茶の島として知られるが、1870年代まで大規模なコーヒー輸出国だった歴史を持つ。1740年代にオランダ統治下で試験栽培が始まり、1796年のイギリスへの統治移行を経て1825年から高地での本格的な商業栽培が拡大した。1863年のセイロンのコーヒー輸出額は、当時の統計表で約213万ポンド(当時の額)とされる。1870年のコーヒー農園の面積は約18万5,000〜18万6,000エーカー(約7万5,000ヘクタール)で、この年の輸出量は88万5,728cwt(ハンドレッドウェイト。1cwt=約50.8kgで約4万5,000トン)とピークを迎えた(Ceylon Directory由来の統計表/1912年版Ferguson’s Ceylon Directory)。

その栄光が一夜にして崩れたのが1869年。ウバ州マドゥルシマ(Madulsima)の農園で最初に発見されたコーヒーリーフラスト(Hemileia vastatrix、通称「デバステイティング・エミリー」)が、モノカルチャーの農園を急速に席巻した。病原菌はセイロン全土の農園へ拡散し、輸出量は1889年には8万8,000cwt(約4,500トン)と、1870年のピークの10分の1未満に激減した(1912年版Ferguson’s Ceylon Directory)。1902年には栽培面積が4,300エーカー(約1,740ヘクタール)まで縮小し、実質的にコーヒー産業は消滅した。

イギリス植民地当局と農園主たちの選択が紅茶への全面転換だった。セイロン島全体の茶の栽培面積は1867年のわずか10エーカーから1883年に3万2,000エーカー、1890年には22万エーカーへと爆発的に拡大し、「セイロンティー」ブランドが世界市場を席巻した。コーヒーを壊滅させた同じ高地が、今度は最高品質の紅茶産地として生まれ変わった。


高地の地理と栽培環境

ヌワラエリヤ(Nuwara Eliya)

標高1,868m(6,128フィート)。「小さなイングランド」とも呼ばれる中央山岳地帯の中心都市で、アラビカ栽培の最高地帯にあたる。夏のモンスーンは山に遮られ、年間を通じて安定した降雨が続く冷涼な気候である。エスプレッソコーヒーガイドの記述によれば、ここで栽培されたコーヒーはブラックペッパーのニュアンスを持つアーシーな一杯に仕上がる。

ハプタレー高地(Haputale)

標高1,431m(4,695フィート)。バドゥッラ県ウバ州に位置し、スリランカ輸出農業省(DEA)が推進するアラビカ復興プログラムの主要栽培域のひとつ。かつての茶農園跡地でコーヒーを間作する小規模農家が増加しており、ウォッシュト精製による明るい酸とフルーティさが評価されている。

スリランカ輸出開発庁(EDB)のブログ記事は、アラビカの産地を標高800m超の湿潤帯・中間帯と説明している。

いま進む復興プログラムと生産規模

スリランカ輸出農業局(DEA)は2024年度予算で4億ルピーを投じ、小規模農家に1ヘクタール当たり100万ルピーを融資(うち50%は返済免除)してアラビカの新植を促している。栽培面積は2020年代初頭の4,690ヘクタールから2025年に約5,763ヘクタールへ拡大する見込みで、生産の約80%を小農が担う。生産量は2023年時点で60kg換算約36,000袋、世界ランキングは40位前後にとどまるが、中央高地でのアラビカ比率は年々上昇している。2019年の輸出額は2017年比84%増と伸びており、150年前にサビ病で消えた島が再び高地アラビカで存在感を取り戻しつつある(出典:Sunday Times 2023-12/Perfect Daily Grind 2023/Sri Lanka EDB)。同じ復興途上の南アジア産地としてはネパール グルミ、対照的にサビ病を乗り越えて定着した隣国の産地としてはインド チクマガルルが参考になる。


サビ病から復興へ:150年の軌跡

時代 主な出来事
1825年 イギリス統治下で高地の本格的な商業栽培が拡大
1869年 Hemileia vastatrix(コーヒーリーフラスト)がマドゥルシマで確認
1870年 輸出量ピーク:88万5,728cwt。農園面積は約18.5万〜18.6万エーカー(約7.5万ha)
1883年 セイロン島全体の茶の栽培面積が3万2,000エーカーに急拡大
1889年 輸出量が8万8,000cwtに減少(1870年の10分の1未満)
1902年 コーヒー栽培面積が4,300エーカー(約1,740ha)まで縮小、紅茶が完全主役に
1980年代 カティモール・サンラモン品種の間作導入で細々と生存
2017年〜 輸出農業局の2017年報告やMDFの調査で、ラクパラクムを選ぶ農家の増加が報告される
2019年 輸出額は2017年比84%増

品種と精製

主要品種

復興期のスリランカを支えるのは3系統の品種だ。

ラクパラクム(Lakparakum) はスリランカ輸出農業省が選抜した現地改良種である。MDF(Market Development Facility)の報告書は、高収量・均一な熟成と真菌病への抵抗性、SCAのカッピングで86点を記録したことを挙げている(収量の具体値や試験条件、元の採点票は確認できていない)。輸出農業局の2017年報告やMDFの調査では、農家の選好が高まっていることも報告されている。ただし、サビ病に特化した耐性や「最も普及している品種」かどうかは、一次資料では確認できていない。

カティモール(Catimor) はヒブリド・デ・ティモール(HDT)×カトゥーラの交配種で、1990年代にスリランカへ導入された。強いサビ病耐性を持つが、カップの個性は穏やかな傾向がある。

ティピカ系(Typica-type) は英国植民地時代から残る在来系統で、栽培数は少ないものの高地農園の一部に存続している。収量は少なく病害にも弱いが、フローラルと繊細な酸が特徴。

精製方法

高地農園ではフルウォッシュト(水洗)が主流。チェリーを収穫後にパルピング→水中発酵(24〜48時間)→水洗→高架乾燥棚で天日乾燥というプロセスを経る。近年はナチュラル・ハニー精製を試みる農園も増えており、よりフルーティな風味の実験的ロットも市場に出始めている。

精製方法

💧

ウォッシュド

Washed / Wet Process

1
収穫→
2
果肉除去→
3
水洗い・発酵→
4
乾燥→
5
脱穀
ボディ
2/5
クリアさ
5/5
発酵感
2/5

豆本来の味が際立つクリーンカップ。明るい酸味とクリアな風味が特徴


代表的な農園・生産者

代表的な農園

  • ハンサ・セイロン・コーヒーHansa Ceylon Coffee
    📍 スリランカ・ヌワラエリヤ高地👤 Harm van Oudenhoven/Lawrence Goldberg

    オランダ出身のハーム・ファン・アウデンホーフェンと米シアトル出身のローレンス・ゴールドバーグが1990年代半ばに設立。ヌワラエリヤ周辺の丘陵に点在する「フォレストガーデン」と呼ばれる小規模農地からチェリーを買い付け、自家焙煎まで手掛ける。ドライプロセス(ナチュラル)中心の精製で、サビ病後のセイロンアラビカ復興を早くから支えてきた生産者のひとつ

  • ケペティポラ地区Keppetipola
    📍 スリランカ・バドゥッラ県(ヌワラエリヤ南東)⛰️ 約1,204m

    ヌワラエリヤの南東、バドゥッラ県に位置する産地。フルウォッシュト精製が主流で、トロピカルフルーツとバニラを思わせる香味のロットが専門ロースターの間で評価されている

  • コトマレ地区Kotmale
    📍 スリランカ・ヌワラエリヤ県コトマレ渓谷⛰️ 1,100〜1,500m

    ヌワラエリヤ県内の高地渓谷地帯。有機・持続可能な栽培を掲げる生産者ヘランタ・コーヒー(Helanta Coffee)が小規模農家と連携し、標高1,100〜1,500mの畑でスペシャルティロットの生産に取り組んでいる


フレーバーと焙煎

フレーバーチャート

酸味苦味甘みコク香り
酸味
苦味
甘み
コク
香り

公開ロット情報と地域の一般的傾向に基づく編集上の目安です。特定ロットの評価や試飲記録ではありません(編集方針)。

高地ウォッシュトのスリランカ産は、チョコレート・ナッツ・ベリー・ブラックペッパーが複雑に絡み合うカップが特徴。酸味は控えめで、ボディがしっかりしている。ヌワラエリヤ産は特にアーシーなブラックペッパーのニュアンスが際立ち、インド モンスーンマラバールとはとは異なるスパイシーさを持つ。スリランカ輸出開発庁(EDB)の記事は、複数のロースターによる86点を超える評価に触れている(ラクパラクム個別の値ではない)。


おすすめの焙煎度

おすすめの焙煎度

ライト焙煎深煎り

ミディアム ロースト

中煎り(シティ〜フルシティ)。チョコレートとナッツの甘みが最も引き出せる。深煎りにすると土とスパイスのニュアンスが強まり、ミルクと合わせたラテにも映える。


ポジショニングマップ

ポジショニングマップ

苦味酸味コク軽いスリランカ ヌワラエリヤ/ハプタレー高地エチオピア イルガチェフェインドネシア マンデリンG1ベトナム ロブスタタンザニア キリマンジャロブラジル サントスNo.2

淹れ方のポイント

  • お湯の温度:88〜92℃(中焙煎ならやや高め)
  • 挽き目:中挽き
  • 抽出方法:ペーパードリップ/フレンチプレス
  • 豆の量:12〜13g / 200ml(12g → チョコレートとナッツの軽快な甘み、13g → ブラックペッパーと土のコクが前面に出るフルボディな一杯)

📏 基準のエビデンス

  • 豆の量:SCA(スペシャルティコーヒー協会)家庭用ブリューワー規格(SCA Standard 310)の目安 55g/kg(約1:18、200mlで11g)/日本式 1:14〜1:16(200mlで12〜14g)。本ブログは焙煎度別に世界寄りの中間値を採用
  • お湯の温度:SCA基準 90〜96℃(93℃±3)/日本式は焙煎度に応じて低め調整。本ブログは焙煎度別に折衷を採用
  • 出典:SCA Coffee Standards / Specialty Coffee Association

目的別に次に読む


訂正(2026-09-27): 1883年の茶の栽培面積を「3万3,000エーカー」と記載していましたが、当時の統計では3万2,000エーカーでした。あわせて、面積がヌワラエリヤ単独ではなくセイロン島全体の数字であることを明記しました。また、1870年のコーヒー農園の面積を「11万1,400ヘクタール(27万5,000エーカー)」と記載していましたが、Ceylon Directory由来の統計表では1870年は約18万5,000〜18万6,000エーカー(約7万5,000ヘクタール)でした。約27万5,000エーカーは1878年前後の値とみられ、年を取り違えていたため、1870年の値に改めました。「1900年に4,610ヘクタールまで縮小」と記載していましたが、1900年の面積は一次資料で確認できませんでした。1912年刊の統計書(Statistical Bulletin 79)で確認できた1902年の4,300エーカー(約1,740ヘクタール)に改めました。「1870年代まで世界最大級の輸出国」「かつて世界最大のコーヒー輸出国」と記載していましたが、1870年頃の大規模な輸出の記録はあるものの、順位を示す同時代の比較統計は確認できなかったため、「大規模なコーヒー輸出国」などの表現に改めました。ラクパラクムを「サビ病耐性を持つ」「現在最も普及している品種」と記載していましたが、輸出農業局の2017年報告とMDFの調査で確認できたのは農家の選好の高まりと真菌病への抵抗性の報告まででした。サビ病への耐性と普及の順位は未確認として、記述を確認できた範囲に改め、年表の「2000年代にラクパラクムの普及で復興が本格化」の行を削除しました。なお、1889年の輸出量が1870年のピークの10分の1未満(88万5,728cwt→8万8,000cwt)だったことは、1912年版Ferguson’s Ceylon Directoryで確認しました。追加の照合で、「1863年には欧州向け輸入コーヒー全体の価値が約2億7,000万ポンドに達し、その約3分の1をセイロン産が占めていた」という記述は、当時の統計表で1863年のセイロンのコーヒー輸出額が約213万ポンド(当時の額)であることと整合せず、「約3分の1」も一次資料で確認できなかったため削除し、当時の統計表の輸出額に改めました。またラクパラクムの「高収量・均一な熟成・SCA86点以上」は、MDF(Market Development Facility)の報告書の記載であることを明記し、「86点以上」は報告書どおり「86点」に改めました。

訂正(2026-09-28): 年表に「1863年 欧州向けコーヒー輸入の約1/3をセイロンが供給」と記載していましたが、2026-09-27の訂正で一次資料では確認できなかったとした内容のため、年表から外しました。

訂正(2026-09-29): 「国際カッピングではスコア86点以上を記録した批評もあり(EDB調査)、スペシャルティレベルの品質が確認されている」と記載していましたが、スリランカ輸出開発庁(EDB)の記事にあるのは複数のロースターの評価として86点を超えるという一般的な記述で、調査の結果ではありませんでした。ラクパラクム個別の値(MDF報告書のSCA 86点)とも別のものです。EDBの記事の記述である範囲に改めました。

訂正(2026-09-30): 抽出の目安で「SCA(米スペシャルティコーヒー協会)Golden Cup基準」と記載していましたが、SCA(スペシャルティコーヒー協会)は米国のSCAAと欧州のSCAEが2017年に統合した団体で、「Golden Cup」は旧SCAAの名称のため、「SCA(スペシャルティコーヒー協会)家庭用ブリューワー認証の基準」に改めました。比率(55g/L、約1:18、200mlで11g)は変更していません。同日、この基準を示していた2017年の認証要件の文書がSCAのサイトで公開されなくなっていたため、現行の家庭用ブリューワー規格(SCA Standard 310-2021、水1kgに豆55g)の表記にそろえました。

訂正(2026-10-10): 「スリランカ全体のアラビカ適地は標高800m以上の湿潤・中間帯とされており(EDB調査)」と記載していましたが、出典はスリランカ輸出開発庁(EDB)のブログ記事の説明で、調査の結果ではなかったため、記事の説明である旨に改め、EDB の原文(above 800m)に合わせて「800m以上」を「800m超」にしました。同じ段落の「栽培面積は約6,445ヘクタール(2019年時点)、生産量は7,688トン(FAO 2019データ)」と、年表の「生産量7,688トン(FAO)」は、FAOSTAT の該当データを確認できなかったため削除しました。

訂正(2026-10-16): 説明文で「1869年のサビ病壊滅から150年越しに復活したセイロン島アラビカ。標高1,868mのヌワラエリヤを筆頭に、かつて大規模なコーヒー輸出で栄えた島がチョコレート・ナッツ・ブラックペッパーの個性で再登場」と記載していましたが、「筆頭」は産地の順位を示す一次資料のない表現で、「チョコレート・ナッツ・ブラックペッパーの個性」も風味を一次資料で確認していない表現、「復活した」も本文で示している復興の取り組み(輸出農業局の新植支援)より強い表現のため、「1869年に確認されたサビ病で衰退したセイロン島のコーヒー。かつて大規模なコーヒー輸出で栄えた島で、標高1,868mのヌワラエリヤなど中央高地を中心に、輸出農業局(DEA)の支援のもと高地アラビカの復興が進む」に改めました。あわせて、ヌワラエリヤの説明で「年間を通じた安定した降雨が続く冷涼な気候が生育をゆるやかにし、酸味と複雑なフレーバーを育む」と記載していましたが、気候と風味の因果を示す一次資料は記事で示していなかったため、「年間を通じて安定した降雨が続く冷涼な気候である」に改めました。


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